『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』(以下『剣心』)は、「週刊少年ジャンプ」(集英社)にて1994~1999年まで連載された大人気剣劇漫画。96年1月にスタートしたテレビアニメはその後世界中で放映され、現在も国際的に愛され続ける名作となっているのだ。
 現在は新たなOVAや実写映画、あるいは新作漫画(!)など多方面で展開中だが、そんな中「フィギュアーツZERO」ブランドからも緋村剣心と志々雄真実がいよいよリリース決定! そこで今回は『剣心』の生みの親である和月伸宏先生をお招きし、人気キャラクター誕生の秘密や各映像作品、そして気になるフィギュアの出来について伺います!

「幕末辺りで何か出来ないかな」と考えたのがきっかけですね。

──『剣心』誕生のきっかけは?

 俺の読切デビュー作は『戦国の三日月』という時代劇だったんですけど、これの評判が良くて、「少年漫画では少ない時代劇のジャンルで人気を取れたんだから、もう少し描いてみよう」と当時の担当さんに言われまして。それで、ちょうどその頃新選組にハマっていたので……まあ新選組は今も大好きなんですけど(笑)、「幕末辺りで何か出来ないかな」と考え始めたのがきっかけですね。
 でも幕末を舞台にすると、どうしても丁髷(ちょんまげ)のキャラクターばかりになってしまうし、個人的にも丁髷がカッコイイとは思えなかった。それで、「丁髷のない明治10年頃にしよう」と考えたんです。そういう意味では、担当さんからの課題を自分なりにクリアしていく中で出来上がっていった感じですね。やっぱり担当さんの影響が大きいと思います。

──少年誌の主人公にしては、緋村剣心は設定年齢が高い(28歳)ように思えますが?

 剣心より高年齢の主人公は、連載当時だと『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の両さん(両津勘吉)を除けば、『シティーハンター』の冴羽遼くらいでしたね。最初に考えてたときは30代の設定だったんですけど、担当さんに「『ジャンプ』の主人公が30代って、どうなの?」と言われて……その担当さん、『シティーハンター』の担当だったこともあるんですけど(笑)。
 それで結局「明治11年が舞台で、ギリギリ20代」という設定になったんですが、その時代設定のおかげで他の漫画とは一風異なる立ち位置が出来た気がします。そのときに練っていた設定や構想が、後々まで作品に活かされた感じですね。

──剣心は普段の明るい表情と、「人斬り」としての暗い面を併せ持つ二面性が魅力的なキャラクターでした。

 「人斬り」という要素がある以上どうしても二面性は出るけど、「主人公を二重人格にするのだけはやめよう」というのだけは最初から決めていました。二重人格だと2つの人格があるわけで、突き詰めると2人の話になってしまう……主人公1人ではなく、その中にいる2人の内面性の話になってしまうので、「それはちょっと違うな」と思ったんです。

フィギュアに関しては、最近は本当に「時代が変わった」という気がします。

──それでは、実際にフィギュアを手に取って頂いた感想をお聞かせ下さい。

 日本の剣術の場合、腰の高さ……重さというか、「腰が入っているかどうか」がとても大事なんです。時代劇として意識すると、腰を低く構えないと力が入っていないように見えてしまうんですね。だから描く際には腰と脚の位置が非常に大事なんですけど、このフィギュアはそこもしっかりと作られているので、嬉しいです。フィギュアに関しては、最近は本当に「時代が変わった」という気がしますね(笑)。
 言い方は変ですけど、平面に描いてある二次元のものと立体化された三次元のものは全く別物なんです。自分としては画としての見栄えを優先して描きますから、どうしても嘘が出てくる。例えばある角度からキャラクターを描くとき、裏側がどうなっているかは正直考えてませんから。重要なのは画としてのカッコ良さで、細かい部分については「パッと見ておかしくなければいい」くらいの考えなので。
 でもこういうフィギュアは、その嘘を上手く立体物に落とし込んでいるんですよね。画ではカッコ良さを追求するためにデフォルメしたり省略したりもしているのに、どんな角度から見ても破綻しないよう見事に成立させている……俺は、そういう原型師さんやメーカーさんの技術を見るのが好きなんです。今回の剣心も、髪の毛の処理など「なるほど、こういう解釈をするのか」と感心しましたね。

──『剣心』のアニメ放映当時は、こういう大人向けのフィギュアはまだありませんでした。

 アニメ放映の頃はちょうど端境期で、まだ大人向けのフィギュアが定着する前でしたからね。1990年代後半にマクファーレントイの『SPAWN(スポーン)』フィギュアの世界的なブームが起きて、その後技術も格段に進化しましたけど……こういう大人向けのしっかりとした商品が日本で展開されるようになったのは、2000年頃からなんです。
 だからあのフィギュアブームがもう少し早く来ていたら、もっとクオリティの高い『剣心』のフィギュアや玩具がたくさん出たのかも知れませんし……正直な話、「最近の作品は、出来の良い玩具がいっぱい出て羨ましいなあ」という気持ちは以前からありました(笑)。だから、こんな風に今の技術で『剣心』を立体化してもらうのは夢でしたし、すごく嬉しいです。

──志々雄真実の出来はいかがですか?

 この志々雄も、よく立体化しましたよね。素晴らしいですよ、お見事です。特に顔の造形は、微妙なライン1つで全く別物になってしまうと思うんですけど……でもある意味マスクキャラだし、そういう意味では作りやすいのかな(笑)。
 立体物にはまた別の苦労があるんでしょうけど、志々雄はとにかく描きやすいキャラクターなんです。包帯の線が多いから、作画的には多少のズレはごまかせる(笑)。あとキャラクターの内面が全くブレないから、描くときに「どんな表情か」を悩む必要がないんですよね。

──袴や着物のシワなども明暗が強調されていて、細かいディテールまで再現されています。

 塗装もしっかりしていて、立体物に落とし込む技術がすごく上がっている感じがします。着物のキャラクターって漫画だと多いんですけど、立体化するのは難しいと思うんですよ。実際に描いてみると分かるんですけど、着物って帯=腰の位置が高いと決まらないんです。でもそれをそのまま描こうとするとどうしても短足になってスタイリッシュに見えないので、意外と嘘が多いんですよ。でもこの剣心や志々雄は、その嘘を踏まえた上でリアルと融合させていて、改めて「最近のフィギュアってすごいな」と思わされますね。
 もしかしたら、『銀魂』や『BLEACH』のキャラクターでその辺のノウハウが確立されたのかも知れませんね。それにしても、やっぱり原型師さんはすごいな(笑)。

──「裏剣心」とでも言うべき志々雄真実のキャラクターですが、どのようにして生まれたのですか?

 「裏剣心」という意図で作ったのは、むしろ鵜堂刃衛ですね。志々雄は、完全に「いわゆる少年漫画としてのラスボス」として設定しました。
 これもまた担当さんの意見なんですけど、連載1周年を過ぎた辺りで「そろそろ大きな話を用意して欲しい」と言われて、そこから「剣心と同じく人斬りでありながら、悪い奴」という発想で考えたんです。「過去に囚われていない」という意味で剣心とは真逆で、いかにも少年漫画らしい強敵として作り込んでいきました。

──他に一緒に並べたいキャラクターは?

 やっぱり(相楽)左之助かなって気がしますね。こういう大きなサイズでフィギュア化されたこともないですし、左之助は剣心と並べるときに「いないと寂しいな」って思います。
 読者的には志々雄・斎藤(一)・剣心が人気キャラクターで、女性キャラクターだと一番人気は(雪代)巴なのかな? 巴は「後出しジャンケン」みたいな、ちょっとずるい存在なんですよね(笑)。メインヒロインではなく後から登場したヒロインで、しかもすでに亡くなっている過去の人ですから、色んな補正が掛かって人気が高いんですよ。

全ては読者の皆さんのおかげなんだと、改めて思いますね。

──OVAの前編も発売され、ますます盛り上がりつつありますね。

 OVAでは「新京都編 前編 『焔の獄』」というタイトルで、志々雄一派との対決が前後編で描かれます。OVAに関してはあくまでも監督が中心で、俺としては監督さんの意向を優先する形でお願いしています。

──さらに今夏には実写映画も公開されますが、最初に映画化のお話が来たときはどんな印象でしたか?

 「怖いもの見たさ」も少しありましたけど(笑)、まずは単純に「観てみたい」という気持ちでしたね。元々二次元だったものを立体で、しかも実写でやるわけですし、どういう映像に仕上がるのかが一番気になりますから。

──剣心の超人的な動きが、CGやワイヤーアクションを含めた最新の映像技術で表現されるのは、純粋に楽しみですね。

 ワイヤーアクションは極論忍者っぽい動きになってしまうのですが、今回はその辺もちゃんと分かっているスタッフがやって下さっているので、最小限で効果的に使うようです。関係者向けの短い映像を見せてもらったんですけど、「これはアリだな……!」という印象でした。
 元が少年漫画ですから「少し浮付いた印象になるかも」と思っていたんですけど、シナリオも映像も実にしっかりと作られていて、衣装もコスプレっぽく見えないように色味やデザインも含めて十分に配慮されていましたし。個人的には、嬉しい誤算でした。

──剣心役の佐藤健さんは、最近の俳優ではやや小柄な印象ですし、『龍馬伝』で同じ「人斬り」の岡田以蔵を演じていらしたことも含めて、ベストの配役ですね。

 映画の企画が動き始めの頃に「剣心役の俳優は誰がいいか」という話をしていて、俺が「佐藤健さんがいい」と言ったら、スタッフから「僕らも佐藤さんで考えてました」って言われて。そこからトントン拍子で進んで行った感じですね。
 脚本も「原作を映画に落とし込むなら、当然こうなるな」と納得が行く出来でしたし、何より大友啓史監督が責任を持って「やります」と言って下さったので、こちらとしては「お任せします」ということですよね。今回のOVAもそうですけど、結局監督やスタッフ側の覚悟や自信……そういう気持ちが一番大事だと思うので。
 漫画だったら自分と担当さんやスタッフくらいで少人数ですけど、それがアニメだともっと増えるし、実写になるとさらに増える。その大人数をまとめる人が、ちゃんと話し合ってこちらの言い分も理解してくれて、その上で「やる」と言ってくれるわけですから、それはお任せします。
 でも今回のOVAや映画、そしてこのフィギュアもそうですけど、全ては読者の皆さんのおかげなんだと改めて思いますね。連載が終わってから12年以上経った漫画に対して、「一緒にやりませんか?」と声を掛けて頂けるというのは、やはり『剣心』という作品に力があったということ。ではその力って何だろうと考えたら……結局、読者の皆さんの存在なんですよ。
 ファンの皆さんが、これだけ時間が経ってもまだ「好きだ」と言ってくれる。その気持ちや声があるから、これだけ時が経った今でも映像作品やフィギュアという形になるんです。だから……「ありがとう」という気持ちだけですね。本当に嬉しいです。

──『剣心』の漫画連載も13年ぶりに再開されるとのことですが?

 剣心の物語は俺の中では一度「描き切った」と思っていて、だからあのタイミングで連載を終わらせてもらったというのが正直なところなんです。でも今回色々と考えている内に「描いてみたいな」と思い始めて、描くことになりました。まだ内容に関しては明かせないんですが、頑張りますので期待して下さい。

──『剣心』は「女性ファンが熱狂した少年漫画の先駆け的存在」としても知られていますが?

 女性ファンの存在は本当に大きかったと思います。連載当時の男性読者と女性読者の比率は7:3だったのですが、「女性読者30%」は今だと当たり前ですけど当時としてはかなり異常な数字で、「ジャンプ内少女漫画」なんて言われていました(笑)。でもそのおかげで、特に連載立ち上げの頃は本当に助けられましたね。

バンダイさんには「完全変形可能なゲッターロボ」を作って欲しい(笑)。

──ちなみに子供の頃は、どんな玩具で遊んでましたか?

 幼い頃は東京に住んでいて、普通に誕生日とかに買ってもらえてました。でも8歳のときに父が亡くなって、実家のある新潟の方に引っ越したんです。別に悲惨な人生だったわけじゃないんですけど、以後は誕生日やクリスマスのプレゼントは玩具ではなく本になって、そこから本を読む習慣が出来て漫画も読むようになりましたね。
 その頃お気に入りだった玩具はタカラ(現・タカラトミー)の『ミクロマン』と、かなりマニアックですけど……コスモスのガチャガチャの『進めロボット軍団』というミニロボットシリーズです。当たりだと合金が使われていたりライトが光ったりするギミックがあって、それが当時の自分にとっては宝物で。手のひらサイズでポケットに入るから、どこにでも持って行ってましたね。……他所のメーカーの商品ばかりで、すみません(笑)。

――最近の玩具でお気に入りは?

 技術的な進化が感じられる玩具を見るのが、楽しいんですよね。『超合金魂』シリーズにしても、「え、あの嘘に挑むの!? よく出来るな」って毎回思いますから。そういう意味ではバンダイさんには、俺が死ぬまでには「完全変形可能なゲッターロボ」を作って欲しい(笑)。ガンプラだってあれだけ進化してますし、いずれはやってくれると信じてます(笑)。

──それでは最後に、ファンの皆さんへのメッセージをお願いします。

 OVAは前編が3月に発売されましたし、フィギュアーツも4月に第1弾の剣心が発売され、映画もいよいよ8月に公開されます。自分ももう一度『剣心』の新たな物語を描くことになりますが、ファンの方の期待に応えられるよう頑張りますので、見守って下さい。よろしくお願いします。

和月伸宏(わつき・のぶひろ)
1970年5月26日、東京都生まれ。新潟県の高校在学中に「ティーチャー・ポン」で第33回手塚賞佳作を受賞し、卒業後上京。1994年に「週刊少年ジャンプ」で『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』の連載を開始し、中高生男女を中心に絶大な支持を獲得。2000年代以降も『GUN BLAZE WEST』『武装錬金』をヒットさせ、現在は「ジャンプスクエア」にて『エンバーミング-THE ANOTHER TALE OF FRANKENSTEIN-』を連載中。ファン待望の『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』の新作は、「ジャンプスクエア」6月号(5月2日発売)より連載される。

Figuarts ZERO Figuarts ZERO
緋村剣心


価格(税込):3,675円
発売日: 2012年04月28日
対象:15才~